第35話「死なないジジ・フラグ(5)」


 万能戦艦ドラグーンは陸戦のゴート海岸十km手前の海底に待機していた。
海底の闇でその全容は掴む事は出来ないが、一度浮上した時に龍の様な姿を見せた事がある。
空に向けて龍の口部分から熱戦砲を放ち、海底に隠れていった。
その後リクセントには蛇の団より無条件降伏の通信が送られた。
リクセント側から降伏を拒否する旨の通信が送られてきた時を待を待って、他にも待機していたキラーホエール二隻、レディーバード二隻のステルスを解き、リクセント海岸を攻囲している形になった。
攻囲から一日が過ぎた。


 スネークはドラグーンの艦長室にラットを呼んでいた。
下級将校などに聞かれたくない話を艦橋でしたくは無いのが理由だった。
今回の作戦は依頼主からスケジュールどおりに動く事を厳命されていた。
そのため将校の間には表面化していない不満が在る。
ドラグーンの艦内では自分がいるためあからさまに不満を漏らす将校は居ないが、自分のいない状況の四隻ではいつ暴発して攻囲をやめて攻撃に移るか分からないだろう。
それでも攻撃に移らない事は、この作戦が終わった後の報酬の大きさ故だろう。
依頼主が蛇の団を通して支給する報酬は主だった組織に千万ドル(米)だった。
蛇の団、海魔、暴風、この三つの組織に報酬が支払われ、集まった下位組織に分配される。
この報酬は成否に関わらず支給され、前金として九百万ドル(米)が渡されている。
蛇の団に限っては新型の装備が戦艦「ドラグーン」 機動兵器「コルトパイソン」「ボーンビー」が支給されていた。
この事実が示す事は依頼主は膨大な資金力と軍事力を持つ組織だという事だった。
契約違反は遠からず破滅をもたらす事を誰もが直感していた。

 スネークは自分の戦の滑稽さを嘲笑していた。
リクセントを大規模な戦力で攻囲しておきながら、即座に総攻撃に移らない。
この事がどれ程愚かであるか噛み締めていた。
遥か昔。
リクセントにはこの顔に皺が刻まれる以前、共に戦った漢が居る。
共に一つの時代を築いた盟友ナンド・ボンダンフェルドが居るのだ。
炎毛狐(えんもうこ)ナンドと言えば一昔前の兵を震え上がらせた最強の代名詞だろう。
もう一人リクセントには戦上手が控えている。
城壁と謳われた防衛戦、篭城戦に比類なき強さを示したルーク・フェニックス。
 たとえリクセントに弱兵しか居ないとしてもこの二人だけは注意せねばならない相手だった。
両軍が睨み合う以前にこの二人に決着を着けるべきだった。

「中佐・・・・・悩むのでしたら、一思いに踏み潰せば良かったのでは?」
副官のラット・ワーグナー大尉が言った。
PTの扱いや白兵戦は苦手だったが、兵の指揮を任せると非凡な素質を見せた。
どの様な戦にあっても冷静であり、全体を見通す思考があった。
指揮系統の上に据えると、本人も驚くほどの胆力を見せた。
「仕方あるまい、傭兵は依頼主には逆らえぬだろう」
「はぁ?・・・・・・そうですが」
ラットが白い歯を少しだけ見せながら笑っている。
今までは納得出来ない案件が有ると不快を露にしたが、最近では物事の陰に隠れた真実を見通す冷静さを身に付けてきたのだと思った。
攻囲を続ける事も依頼の中身であるという事は理解したようだ。
「ふむ、余裕があるな」
「いえ、余裕などありませんよ」
「ほう?」
「敵の指揮官も我が軍も寡兵で戦う事を知り尽くした者達です。指揮を誤る事はできません」
「その通りだ、リクセントは弱兵の集まりなれど、死兵になられては我々も油断は出来ん」
「・・・・勝ちます。このまま何もリクセントに打開の策がなければ勝ちます」
ラットは言い切った。
自分もそう思う。
リクセントがナンドの指示の下で実働部隊の建て直しを中心に行っているが、一年や半年で為し得るものではない。
兵の調練以前に資質を見極めた選別から行った事を考えれば、今のリクセントにはまとまりがない。
欧州諸国が増援に駆けつけようとしても最近多発している異星人襲撃を恐れて主力を派兵する事が出来ない。
地球連邦政府としてはこれ以上バルマー、インスペクター以外の異星人と事を構えたくない意向があり、未確認の機動兵器には慎重な対応を各国に要求している。
万が一にも他星間と和平と友好が結べられば、地球圏の危機的状況が好転するかもしれないのだ。
誰も星間戦争の首謀国家の汚名は着たくないのだろう。
その煽りをリクセントが喰っている。
「しかし、戦は生き物だ」
「は?」
「この言葉は指揮官であるお前の胸だけに留めておけ」
「はっ!」
「指揮にもどれ。攻撃の合図は儂が出す」


 ラットが艦長室を出て行くと、室内は静かになった。
静かになったな。
スネークはそう思った。
だが部屋の中に漂う空気は暗く淀んだものに変容しつつあるのだと思った。
戦いを待ち望む黒い欲望が自分の中で渦巻いている。
この渇望はナンドに対して向けられたものではない。
ルークでもない。
この二人は確かに強い。
だが二人は秋(とき)ではない。
ナンドが最も強かった時期は既に過ぎ、ルークは今も強いが、個ではなく群体として更に強くなるだろう。
この渇望はジジ・フラグに対してだな。
ジジは今こそ秋(とき)を迎えている。
これから二十年近くはジジ・フラグが最強の代名詞として語り継がれるだろう。
流浪の戦人ゆえ、軍の中の将としての評価ではなく、個人としての評価として「最強」
誰に拠る事もなく自分の思いのままに戦をするのだ。
思いのままに生き、思いのままに死ぬ。
自分の半分ほどしか生きていないこの男に強い羨望と嫉妬を抱きながらほぼ十年が経とうとしている。
この男こそ自分の後継に相応しいと思った時も在った。
何もかも格が違う。
覆し難い人間として戦人としての核の差に開きが有り過ぎる。
「それでも勝つ」
「俺は・・・・」
俺は秋(とき)を外した戦人ではない。
ふと自分の呼び方が変わったのだと思った。
同時にジジフラグの襲来を予感している事に気付いた。
他の兵には言えないな。
兵が怯える。
奴が出てきたら俺が仕留めるしかあるまい。
「くっ!」
自戒した。
俺・・・・いや儂が勝つ必要はない。
儂が勝利への血路を開き、数で討ち取る。
・・・・・・・・・。
迷いは無い。
この「蛇の団」という傭兵軍が儂であり。
「儂こそが蛇の団」
虚空を睨む。
ジジは必ずやってくる。
何処からかは分からない。
即座に対応する事が必要だ。

 


●ネタばれてきな要素を多分に含んでいますのでご注意してください。

ジジ・フラグ

ユメ・神原

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フント・ダン・ケイン

フォンリス・ガイ ・ブラヘルダー

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